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假名遣の歴史
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2009-04-28假名遣の歴史 附録一 文部省の假名遣改定案を論ず

第六 「ゐ」「ゑ」の廢棄

この改定案を見るに「ゐ」「ゑ」の假名は廢棄せられたるなり。世人は果してこれを是認するか如何。吾人かくいはば、國語調査會は或はこれらの假名は廢棄せるにあらず、使用せざるなりといはむ。然れども一時使用せずといふならば、廢棄とは異なりといふを得べけむかなれど、永久に使用せぬことを称して廢棄といふ以上、國語調査會がこの二字を廢棄せるにあらずして何ぞ。

抑もこの二字を廢棄する理由何處に存するか。國語調査會は或は使用せられざるが故にといはむ。されど

ゐど(井) まゐる(参) ゐる(居) すゑ(末)

の如きは現代人の使用してこれを誤るもの甚だ稀なるは極めて明白なる事実なり。使用せられざるが故に廢棄すといふ論は成立すべきにはらず。

次には「ゐ」「ゑ」の二音は発音上「い」「え」となれりといふ論あらむ。如何にも國語調査會の例示せる如きにはその如くに発音すといふを得む。されどこの文字のあらはす發音は國民間には存在せるものなり。これは少しく聲音學の智識を有するものならば、誰にも心づかるべきことなり。粗雑なる世俗的の智識を以て俗人にこの音の有無を問ひ、彼れらが無しと答へたりとて、直に無しとするが如きは大早計の事なりといふべし。眞に國語を発音通りに記述せむと欲し、又それによりて假名遣を定めむとならば、あらゆる発音を厳密に科学的に調査し、それらの有無変化等を十分に明らめざるべからざるものにあらずや。かつて國語調査委員會の調製せし聲音分布図の如きは根本的の調査を経たる資料にあらぬことは今更いふまでもなきところなりとす。この故に今急にこれを廢止するが如きは學術上大早計の事に属す。他日「ゐ」「ゑ」の音の國民的に存することの確証せらるゝに至らば今の國語調査會は如何にしてこれに處せむとするか。

かくて又「ゐ」「え」の廢棄よりして五十音図と伊呂波歌とは當然廃棄せらるゝに至らむ。國民は果してこれを容認すべきか。今伊呂波歌は姑く措き五十音圖の如きは國語の組織を説明せむが爲に案出せられしものにしてこれによりて國語の理法に幾許の便宜を与へたりや量り知るべからず。然るに、これらの論者は多くは五十音圖の如きは舊時代の遺物と貶して學術上何等の価値なきものゝ如くいへるもの多し。然るに今の改定案にア列、イ列、ウ列、エ列、オ列の名称を用ゐるはこれ何ぞや。これらは實に五十音圖によりて起れる名称にして、五十音圖を離れては意義をなさゞる語なるにあらずや。一方に五十音圖を破りながら、一方にそれによりて認めらるべき術語を用ゐることその矛盾撞着も亦甚しといふべきにあらずや。

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舩木直人(funaoto@hat.hi-ho.ne.jp)