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假名遣の歴史
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2009-04-28假名遣の歴史 附録一 文部省の假名遣改定案を論ず

第一 假名遣改定の權能何處にあるか

余は先づこの假名遣を改定する權能の何處に存するかを知らむと欲す。今吾人は新聞紙の報道によりて國語調査會がこの案を決議したるを知れり。然れどもこれが案たる以上實行の能力は何處に存するを知らず。然るにこの決議はたゞ國語調査會の意思表示たるに止まらずして、これを國民に實行せしむることを目的とせる由に新聞紙は報ぜり。果して然らばこの國語調査會は國民にその新に定めたる假名遣の實行を強要する權能あるものなりや。

假名遣の改定案は若し實行と否とを問はず、單に國語調査會が決議せしのみといふ事ならば、吾人がこれを大事件と思ひて論議することは聊か滑稽の感なきにあらず。然れども政府が巨額の國費を投じてさる遊戯に等しき事をなさしむべき筈もなく、委員諸公も亦さる無用の事に貴重の時間を費さるべき筈もなきなり。されば人ありてこの國語調査會の決議即ち國民に實行を義務として課するものなりといはむか。これ決して不條理の観察にあらずして寧ろ當然の観察なりとす。然れど今の國語調査會の官制を見るに「普通に使用する國語に關する事項を調査す」とありて、一種の調査機關に過ぎずして、國民に強要すべき事項の決定をなしうるか否かは疑はしきことなりとす。

抑も民族常用の文字の如きは官府の力、法令の力を以てして、直ちにこれを改廢すべき性質のものにあらざるは明かなる事實なり。文部省は假名遣の改廢を數囘企てゝ、しかも常に失敗せり。然るに拘らずこりずまになほこれを企つるものは抑も何の信ずる所あつてぞ。惟ふに本邦に漢字入りて後襲用久くして、その繁に堪へずして假名を案出せり。この假名はその發明者と称せらるゝもの一二傳へられるども、これたゞ傳説たるに止まり、事實は民族の要求によりて徐々に完成せられたるものといふを妥當なりとす。かくの如く文字言語の如きは自然の推移に待つべきものにして、人力を以てしてはたゞその方針を示して邪路に陥るを防ぐに止まるべきものなり。しかるを一挙にして根本的に之を改めむとするが如きは、政治上の大革命に乘ずる場合の外には夢想するだに難しとする所なり。否、政治上の大革命に乗じてもなほ且その事を遂げ得べからざるは、かの秦始皇の暴擧の顛末を見ても思ひ半に過ぎむ。實に言語文字の改革の如きは非常に變態なる事情の存せざる限りは決して強制的に行ふべきことにあらず。若し強ひて平地に波欄を起すが如き事をなして之を強制する事あらば、その反動はゆゝしき大事件として起るべきを十分に覚悟せざるべからず。

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舩木直人(funaoto@hat.hi-ho.ne.jp)